イソプロピルアルコール(IPA)を家庭で使用してOKか?というご質問をいただきました。
IPAはお酒の成分であるエタノールと同じ、アルコール類の一つです。
ただし、毒性があるので飲むことはできません。
身近なところでは溶剤、脱脂剤、ガソリンの水抜き剤などに使われています。
現在新型コロナウィルスの影響でエタノールの代わりにIPAを消毒剤として使っている例も見られます。
ご質問の方は模型作りの洗浄剤として取り扱いを想定しているようです。
では解説します。
化学物質の「危険性」と「有害性」
化学物質にはいろいろなリスクがあります。
例えば、爆発するとか、火事になるなどの「危険性」
また、それを扱うとがんになるとか、目に入ると失明するなどの「有害性」
ですから、まずはそれを扱う前に、爆発するとか火事になるとかの「危険性」からみておかなくてはなりません。
IPAの「危険性」
法令を見ていきましょう。
化学物質の「危険性」を規制する法令の代表的なものに「消防法」があります。
消防法は火災を予防することを目的としています。
そのためにIPAなど危険物の取扱い、保管、運搬にあたって欠かせない概念に、指定数量というものがあります。
指定数量は、「危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量」で、IPAの指定数量は400Lです。
400L以上使用する場合は、消防法の適用(消火設備の設置 、種類・数量の届け出、管理者の選任、定期点検の実施など)を受けます。
ただし、指定数量に満たない危険物であっても少量危険物という規制枠があり、
(一般家庭の場合、指定数量以上の危険物を貯蔵又は取扱う機会は少ないと思いますが、)
指定数量の5分の1以上、指定数量未満の量の危険物を貯蔵または取扱う時には、
消防長に届出をしなければなりません。(各地方公共団体の定める条例をご確認ください)
ですから、80L未満(例えば一斗缶レベル)であれば問題はありません。
以前筆者は主婦はどれくらい食用油を買いだめできるのだろうと考えたことがあります。
動植物油の指定数量は10000Lなので2000L(2Lの油1000本)未満なら問題ありませんね。
それから、燃えるものなのだという認識をしっかり持って扱って下さい。
IPAの「有害性」
「危険性」の次は「有害性」です。
化学物質の「有害性」を規制する法令に「労働安全衛生法」があります。
IPAは有機溶剤です。有機溶剤は常温では液体ですが、一般に揮発性が高いため、蒸気となり、作業者の呼吸を通じて体内に吸収されやすく、また、油脂に溶ける性質があるため皮膚からも吸収されます。
どのような有害性があるかというと中枢神経系、全身毒性の障害があります。
また呼吸器への刺激の恐れがあります。
油は油に溶けます。有機溶剤は油の仲間です。ですから体の中の脂(あぶら)、つまり
中枢神経などにたまり、結果として健康障害を引き起こすと言うことです。
化学物質の有害性を知るにはSDSを読みます。
SDSはインターネットで「IPA SDS」などと検索すると簡単に入手することができます。
IPAはその有害性から有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となります。
有機則はあくまで、業務を対象としているので趣味の範囲ではというととても微妙なところです。
有機則が対象となる業務は有機溶剤作業業務もしくは屋内作業場となります。
有機則には適用除外認定というものがあり、
消費する有機溶剤等の量が少量で、許容消費量を超えないときは、所轄労働基準監督署長の
適用除外認定を受けることができます。
この認定を受けていない場合には、たとえ消費量が少量であっても、作業環境測定や健康診断等の実施が必要です。
IPAは第2種有機溶剤等なので消費量Wが2/5作業気積以下ならば適用除外を受けられます。
例えば6畳で、高さが2.4mの部屋で作業しているのであれば、W=2/5✕11㎡✕2.4mで、ざっと10g程度であれば、所轄労働基準監督署長の適用除外認定を受けることができます。
もし仮に模型をコミケなどで販売するのであればそれは業務に該当するでしょう。
よって、作業主任者の選任、局所排気装置の設置、作業環境測定などが必要です。
有機則適用外であっても、作業の内容、使用する溶剤の有害性の程度に応じて、換気の設備
保護具の使用など健康障害の予防をするための措置を講ずるように努めましょう。
なお、許容濃度は400ppm(980㎎/㎥)(日本産業衛生学会)です。
6畳で10g程度の使用量でしたら換気良くして、所轄労働基準監督署長の適用除外認定を
受けて使用して下さい。
IPAの廃棄
続いて使用した後の廃棄です。
基本的に排水規制は濃度規制です。ですからこれは量によります。
下水排除基準とは別に流してはいけないものがあります。研究排水や薬品類です。
常識の範囲だと思いますが、てんぷら油など下水に流す人はいないと思います。
固まる薬品をホームセンターなどで購入して燃えるゴミの日などに捨てると思います。
あくまで量によりますので、筆者は例えばIPA10g程度であれば希釈して下水道に流しても、家庭用排水の負荷とそう変わりはないと思います。
もし量が多い場合、これは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」いわゆる廃棄物処理法
の対象になります。廃棄物処理法16条には投棄の禁止があります。
家庭からでるIPA廃液は内容によりますが家庭系一般廃棄物もしくは特別管理一般廃棄物
に分類されます。一般廃棄物は市町村の区域内での処理を原則とし、市町村に統括的処理責任があります。地方自治体の判断によるということですから廃棄の場合は地方自治体の基準に従って下さい。
さいごに
いかがだったでしょうか?
今回は法令ベースでの解説となりました。
法令を守れば事故や健康障害が絶対起きないかというとそうではありません。
基準達成型ではなくベスト追求型でないといけません。
そのためには、世間の常識と照らし合わせて今どうか?ということを常に考え、行動することが大切であると考えます。
例えば臭いと感じたり、気分が悪くなったり、家族や近所からクレームがあったら、世間の常識からずれている証拠ですので、その時は立ち止まってもう一度考え直す必要があると思います。
お安全に!
一代技術士事務所 鈴木