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執筆者の写真takashi suzuki

胃薬の中にドーピング禁止薬物

医師から処方され胃薬を飲んだ青年がいた.その青年は患者であると同時に,日本の将来を嘱望されるレスリング選手でもあった.試合後彼はまさかのドーピング違反で資格停止処分を受けることになる.

彼が医師から処方された薬の中に,ドーピング禁止薬物が混入していたためである.彼がドーピング違反と認定されたことから,同剤へのドーピング禁止薬物の混入が発覚した.調査がはじまり,その結果APIメーカーで,胃薬原薬の製造で使用された装置と,ドーピング禁止薬物に指定されている薬品とが,生産設備を共有していたため,胃薬原薬にドーピング禁止薬物が残留し,最終製剤までキャリーオーバーしたことが原因であると判明した.

GMPでは原薬の残留基準は,毒性評価(PDE)から設定する.残留物質の限度値の設定方法にはいくつかある.

1. 毒性評価に基づくもの,NOAEL(無毒性量),NOEL(無作用量)からの許容基準

2. 0.1%基準,次製品の1日最大投与量中への混入量は前製品の最小投与量(原薬)の1/1000力価以上の混入がないこと.

3. 10ppm基準,次製品に前製品の10ppm以上の混入がないこと.

本件,製薬メーカーではドーピング禁止薬物の量は極めて微量であり,無毒性許容量の1/1000程度であることが確認されており,当該胃薬を長期服用した場合であっても安全性に問題はないとしたうえで,スポーツ競技者には服用を控えるようにとコメントしている.

なお,当ドーピング禁止薬物に指定されている薬品は現在も緑内障,てんかん,メニエール病など多様な疾患に使用されている薬である一方で,筋肉増強剤を隠ぺいする目的で使用する者がいるため禁止薬物に指定されているようである.

本件の問題は交叉汚染である.異なる医薬品が共有施設において製造される場合,懸念事項として交叉汚染を生じる可能性が考えられる.つまり,洗浄後の製造設備における有効成分の残留やその他の製品接触面によって同じ施設内で製造される医薬品が汚染される可能性である.有効成分は,意図した患者や対象とした動物にとっては有益であるが,本件のように,交叉汚染物質は患者や対象動物にいかなる利益をももたらすことはなく,リスクとなることさえある.このため,活性を有した汚染物質は,あらゆる集団においても安全であると考えられるレベルまで制限されるべきである.閾値(一日許容曝露量(PDE)または毒性学的懸念の閾値(TTC))は,非臨床および臨床データの両方を含めた入手可能なすべての薬理学的ならびに毒性学的データの体系的な科学的評価の結果として,算出されるべきである.科学的データが安全性に係わる閾値の根拠とならない場合,あるいは操作上,技術的な方法でリスクを適切にコントロールできない場合には,医薬品の製造には専用施設が要求される.

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